HISTORY File 006波乱のグランプリ
有馬記念は競馬ファンのみならず、一般の方からの認知度も高い“年末の風物詩”として親しまれている。その理由の一つとして、『ファン投票』により出走馬が選出される画期的な仕組みが挙げられるだろう。通常、ファン投票では、実力のある馬や個性が強く人気のある馬などが上位に選出され、多くのファンの夢を乗せて出走する。世間から大きな注目を集めるこのレースは、ファン投票上位の馬がその期待に応えるように優勝することが多いが、時には大きな波乱を巻き起こすヒーローが誕生することがある。
第1章
1991年
乾坤一擲の
レコード勝利
この年の有馬記念は15頭立てで行われ、ファン投票1位と単勝1番人気の支持を集めていたのはメジロマックイーンであった。メジロマックイーンは前年の菊花賞を制した上に、古馬となった同年に天皇賞(春)を優勝し、祖父メジロアサマ、父メジロティターンと親仔三代天皇賞制覇を達成。前走のジャパンCでは日本調教馬最上位の4着に入っており、実力最上位との見方が強かった。
しかしレースでは、ツインターボが作り出した淀みのない流れが、波乱を巻き起こす。前半の1000m通過は59秒0と、冬の荒れた馬場コンディションを考えるとかなりのハイペースであった。第3コーナーの手前でツインターボが失速すると、その後ろにいたプレクラスニーが先頭に立ち、その後ろをダイタクヘリオスが追走していく。メジロマックイーンやナイスネイチャといった人気馬がその2頭の外に進路を向け、中山競馬場の急坂を登り終えてから、プレクラスニーとダイタクヘリオスを捉えにかかったメジロマックイーンであったが、その時果敢に内を突き、一気に先頭に立っていた馬が一頭いた。それはファン投票40位、単勝14番人気のダイユウサクであった。メジロマックイーンは追いすがるも結局届かず、ダイユウサクは前評判を覆す大金星をあげたのだった。
単勝の払戻金は有馬記念史上初の万馬券となる1万3790円を記録し、現在もその配当記録は塗り替えられてはいない。しかも勝ちタイムの2分30秒6は、1989年有馬記念の優勝馬であるイナリワンが記録した2分31秒7を1秒1も更新する芝2500mのJRAレコード(当時)でもあった。
ダイユウサクはデビューから32戦目で初のGⅠタイトルを獲得。それまで芝、ダートを問わず様々な条件のレースを経験していたが、勝ち鞍が2000mまでであったことに加えて、2500mで行われる有馬記念が自己最長距離のレースであったことも、戦前の評価の要因になっていたのであろう。
この年、ダイユウサクは年初に行われる重賞である金杯(西)も制しており、まさにダイユウサクに始まり、ダイユウサクに終わった1年であった。
第2章
1992年
下馬評を覆す
GⅠ馬の意地
翌年1992年の有馬記念でも大波乱が起こる。この年の主役は、前走、父シンボリルドルフ以来となる日本調教馬によるジャパンC制覇を果たしたトウカイテイオー。今なお高い人気を誇る名馬だが、もちろんファン投票1位、単勝1番人気に支持されていた。そのほかにも菊花賞で二冠馬ミホノブルボンを退けて優勝したライスシャワーや、11番人気で天皇賞(秋)を制したレッツゴーターキン、マイルチャンピオンシップを連覇し、スプリンターズS(4着)から連闘で臨んできたダイタクヘリオスなど、グランプリレースに相応しく6頭のGⅠ馬が出走していた。その中には宝塚記念で逃げ切り勝ちをおさめたメジロパーマーも含まれていたが、秋競馬での惨敗が響き、ファン投票17位、単勝15番人気という評価での出走であった。
同年の天皇賞(秋)でも繰り広げられたメジロパーマーとダイタクヘリオスの逃げ争いが注目されたが、先手を取ったのはメジロパーマーであった。後方に待機した人気のトウカイテイオーを各馬が意識する中、メジロパーマーは後続との差を徐々に広げていきながらも、前半1000mを62秒6という逃げ馬にはおあつらえ向きと言える展開に持ち込んだ。
2番手に控えていたダイタクヘリオスは抑えがきかなくなり、向正面から先頭に並びかけていくが、メジロパーマーの鞍上を務める山田泰誠騎手の手綱は動かず、折り合いに専念。最後の直線に入ると、スタミナ比べに屈したダイタクヘリオスが失速する一方で、メジロパーマーは二の脚を使って後続との差を広げていく。ゴール手前でレガシーワールドが急追するもハナ差で凌ぎ、見事グランプリホースとなった。1番人気のトウカイテイオーは後方のまま11着、ライスシャワーも直線で伸びきれず8着に敗れる大波乱のレースとなった。単勝の払戻金は同レースの歴代2位となる4940円。2着のレガシーワールドが5番人気だったこともあり、その前年から導入された馬連の払戻金は、3万1550円の高配当を記録した。 同年の天皇賞(秋)でも繰り広げられたメジロパーマーとダイタクヘリオスの逃げ争いが注目されたが、先手を取ったのはメジロパーマーであった。後方に待機した人気のトウカイテイオーを各馬が意識する中、メジロパーマーは後続との差を徐々に広げていきながらも、前半1000mを62秒6という逃げ馬にはおあつらえ向きと言える展開に持ち込んだ。2番手に控えていたダイタクヘリオスは抑えがきかなくなり、向正面から先頭に並びかけていくが、メジロパーマーの鞍上を務める山田泰誠騎手の手綱は動かず、折り合いに専念。最後の直線に入ると、スタミナ比べに屈したダイタクヘリオスが失速する一方で、メジロパーマーは二の脚を使って後続との差を広げていく。ゴール手前でレガシーワールドが急追するもハナ差で凌ぎ、見事グランプリホースとなった。1番人気のトウカイテイオーは後方のまま11着、ライスシャワーも直線で伸びきれず8着に敗れる大波乱のレースとなった。単勝の払戻金は同レースの歴代2位となる4940円。2着のレガシーワールドが5番人気だったこともあり、その前年から導入された馬連の払戻金は、3万1550円の高配当を記録した。
メジロパーマーは短距離レースや障害レースに出走するなど、紆余曲折のある競走生活を送りながらも、逃げの戦法を武器にGⅠ2勝をあげた。勝つ時の爽快さに心打たれるファンが多かったことだろう。
第3章
2007年
中山巧者の大金星
2007年、日本競馬界は64年ぶりに日本ダービーを制した牝馬の誕生に興奮していた。その牝馬とはウオッカであり、この年の有馬記念ファン投票では堂々の1位に選出されていた。ただ、ダービー優勝以降は勝ち星から遠ざかってしまった影響か、単勝3番人気にとどまった。1番人気に支持されたのは、ファン投票の1位こそウオッカに譲ったが、同年に天皇賞春秋制覇を成し遂げたメイショウサムソンだった。ほかにも、ウオッカとライバル関係にあるとされていたダイワスカーレットや、その兄でマイルチャンピオンシップ連覇を達成したダイワメジャー、前年に海外G1制覇を果たしたデルタブルースや地方馬コスモバルクなど、役者揃いの有馬記念となった。
前半1000mは60秒5という淡々とした流れでレースが進んだが、3コーナーに差し掛かったところで徐々にペースが上がっていく。4コーナーで逃げるチョウサンとダイワスカーレットの間をつき、直線で先頭に踊り出たのはファン投票19位のマツリダゴッホ。メイショウサムソン、ウオッカといった人気馬が後方で伸びあぐねる中、マツリダゴッホは出走馬最速タイの上がり3ハロン36秒3でまとめあげての完勝だった。単勝9番人気、払戻金は5230円と、ダイユウサクに次ぐ有馬記念歴代2位の高額配当となり、3連単導入後の有馬記念では当時の最高配当となる80万880円を記録した。
不世出の大種牡馬・サンデーサイレンスのラストクロップとして誕生したマツリダゴッホは、クラシックには縁がなかったものの、有馬記念を含め中山の芝重賞で6勝をあげる活躍を見せた。翌年、翌々年の有馬記念では優勝こそ逃したものの、「中山巧者」ぶりが評価される形でファン投票や単勝人気では常に上位の支持を集めるなど、ファンから愛されたヒーローであった。
第4章
2023年
新たなるヒーローの
誕生?
ファン投票によって出走馬が決まる有馬記念は、ファンの想いや夢が詰まったレースだ。ここ数年の有馬記念は、ファン投票で上位に選出された馬が順当に勝ち上がっているが、展開や得手不得手によってどの馬にも勝機があり、そこが競馬の面白さのひとつと言えよう。
近年、日本調教馬が海外のレースで活躍することが当たり前と言えるほど、日本競馬は世界でも高いレベルに到達している。そんなハイレベルな日本競馬界の一年を締めくくる今年の有馬記念ではどのようなドラマが生まれ、どんなヒーローが誕生するのだろうか。
有馬記念とファン投票の成り立ち、歴史
中央競馬にファン投票で出走馬が選出されるレースは2つある。それは宝塚記念と有馬記念だ。中でも年末の有馬記念は、その年の競馬界を沸かせたスターホースたちが集結するレースとして、一般の方々にも広く認知されているが、その始まりは、1956年の中山競馬場の新スタンド竣工を機に、当時の理事長だった有馬頼寧氏が提案した「中山グランプリ」である。プロ野球のオールスター戦のようにファン投票によって出走馬を選出し、ファンがより一層競馬に親しみを感じられるようなレースにするという目新しい目的を持ったものであった。
第1回は12頭の出走馬の中に天皇賞の優勝馬が3頭、クラシック競走の優勝馬も4頭が名を連ねるハイレベルなレースとなった。翌年、急逝した有馬氏を称える形で、「中山グランプリ」は同氏の名前を取った「有馬記念」と改称され、1996年には1レースにおける世界の競馬史上最高額となる875億円を売り上げるなど、いまや有馬記念は年末を代表するイベントとなっている。今年も日本中の注目を集める中、ファン選出馬たちによる夢の対決が、暮れの中山競馬場で繰り広げられる
歴代ファン投票の
得票数・得票率
ランキング
ファン投票は、自分が出走させたいJRA所属の 3
歳以上の現役競走馬を 1~10
頭まで選んで投票することができ、有馬記念の第 1
回特別登録を行ったJRA所属馬の中から、ファン投票による得票数の多い上位
10
頭に優先出走権が与えられる。前述した通り、ファンから人気がある馬が上位に選出されるのである。
では、歴代のファン投票でどの馬が最も多くの票数を獲得したのかというと、2022
年のファン投票で 1 位となったタイトルホルダー(36 万 8304 票)
。2 位も 2022 年のファン投票で 2 位となったエフフォーリア(30 万
661 票)で、この 2 頭が史上初めて 30 万票の大台を突破した。
一方、得票率を見てみると、歴代の得票率で83.1%を記録した2022年のタイトルホルダーがトップだが、2位(2017年:79.9%)と、3位(2018年:79.0%)に入っているのがキタサンブラック。そして4位(2006年:78.7%)と5位(2007年:77.5%)にはディープインパクトがランクインしている。
得票数のトップ10は全て2020年以降の競走馬であり、これは手軽なWEB投票がファンに定着したことが大きいだろう。そのためWEBでの投票がまだ主流でなかった時代と一概に比較はできないが、競馬に対し興味や関心を持ってくれる人が非常に増えていることの表れなのではないだろうか。
現在は、インターネット投票を中心に競馬を楽しむ新規の競馬ファンも増えている。
そのファンの方々にとって、WEBでの投票は、より身近なものとして受け入れられているはずであり、今年のファン投票上位馬の得票数も注目される。