HISTORY File 001年度代表馬

年度代表馬
年度代表馬

第1章

その名の通り
その年を
象徴する
競走馬を決める
「年度代表馬」

その年の中央競馬において、最も優れた競走馬を選出する賞が、JRA賞年度代表馬である。その他のスポーツでいうところのMVPにあたる賞と言えるだろう。選出するのはファンや調教師や騎手でもなく、日々、レースを見続けてきた記者たちの投票によって決められている。ちなみにJRA賞では年度代表馬の他にも、性別や年齢ごとに最優秀馬を決めるだけでなく、レースの距離(最優秀短距離馬)や、異なった条件(最優秀ダートホース、最優秀障害馬)で最も優れた成績を残した競走馬への賞といった部門分けもされている。

JRA賞、そして年度代表馬の歴史は、1954年に中央競馬で優れた成績を残した競走馬に与えられる啓衆賞に始まっている。1972年にその役割は中央競馬の機関誌である『優駿』の優駿賞へと変わり、そして1987年からはJRAが主催するJRA賞となった。

第2章

三強の争いとなった
1999年の
年度代表馬選考

先述した通り、年度代表馬は中央競馬の競走馬の中で、その年に最も活躍した馬に贈られる賞である。必然的にほとんどの場合、JRAで行われるGⅠレースの優勝馬が選ばれていくのだが、選考する記者を悩ませた年となったのが、1999年の年度代表馬選考である。

この年、天皇賞春秋連覇、ジャパンカップとGⅠ3勝をあげたのはスペシャルウィークだった。ただ、宝塚記念と有馬記念を勝利したグラスワンダーは、その2つのレースでスペシャルウィークを下していた。
2頭の選考でも頭を悩ますところだが、そこに加わってきたのが、春シーズンから長期ヨーロッパ遠征を行っていたエルコンドルパサーだった。エルコンドルパサーは遠征初戦となるイスパーン賞こそ2着に敗れるも、続くサンクルー大賞とフォワ賞を優勝。陣営が最大目標として定めていた、世界最高峰のレースの一つである凱旋門賞では、日本調教馬として初めて2着となる快挙を成し遂げた。

年度代表馬の投票はこの3頭で票が割れる形となり、度重なる審議の結果、この年は一度も国内のレースを走ることのなかったエルコンドルパサーが、年度代表馬に輝いた。
実は前年の1998年にも、安田記念とマイルチャンピオンシップのマイルGⅠ2勝に加えて、フランスのG1ジャックルマロワ賞を勝利したタイキシャトルが、マイル以下の短距離のみで活躍した馬として初めて年度代表馬に選出されている。
この年はファレノプシス(桜花賞、秋華賞)、セイウンスカイ(皐月賞、菊花賞)、エルコンドルパサー(NHKマイルカップ、ジャパンカップ)と平地芝GⅠで2勝をあげた馬が3頭いたものの、短距離で実績を残したタイキシャトルが選出されたのは、ヨーロッパのG1勝利が大きかったと言える。

こうした前年からの流れを受け、やはり日本調教馬としては初めてとなる凱旋門賞での連対が、エルコンドルパサーの評価を高めたのだろう。海外遠征が当たり前のように行われている今日の日本競馬界とは、時代背景が少し異なっていたと言える。

第3章

スプリンターとして
年度代表馬に輝いた
ロードカナロア

タイキシャトルの年度代表馬選出から15年後の2013年、再び短距離で活躍したロードカナロアが年度代表馬に輝いた。この年は6戦5勝とほぼ完璧な競走成績を残しており、海外G1の香港スプリントを含めて、GⅠ4勝をあげている。
ただ、この年の年度代表馬候補もレベルの高い年だった。最優秀4歳以上牡馬に選出されたオルフェーヴルは、有馬記念を勝利しただけでなく、エルコンドルパサーと同様に凱旋門賞で2着となっている。また、オークスと秋華賞、古馬相手のエリザベス女王杯を制したメイショウマンボや、日本ダービーを制し、凱旋門賞4着となったキズナ。そして、ジャパンカップ連覇を達成し、GⅠで好走を続けたジェンティルドンナと、各部門の最優秀馬たちも軒並み優れた活躍を見せた。

古くから重要視されてきたクラシックディスタンス(芝2400m)での活躍馬を退けて、スプリントで実績を残した馬が年度代表馬に選出されることは画期的だった。

また、ロードカナロアの仔であるアーモンドアイは2018年、2020年と2度にわたり年度代表馬に選出される活躍を見せ、改めて父の偉大さを証明してみせた。

第4章

今や年度代表馬を
席捲し続ける
牝馬たち

近年は牝馬の活躍が顕著で、年度代表馬に選出されるケースが増えてきた。

1971年のトウメイ以来、史上2頭目の年度代表馬となったのが1997年の天皇賞(秋)を制し、その後のジャパンカップと有馬記念でも好走を続けたエアグルーヴだった。2008年と2009年には、ウオッカが牝馬としては初めて、2年連続で年度代表馬の座に輝いた。

2010年に選出されたブエナビスタの後にも、2012年と2014年にはジェンティルドンナ、2018年と2020年にはアーモンドアイ、2019年にはリスグラシューが受賞。過去15年で8度牝馬が選ばれている。

これには近代競馬における管理技術の向上により、牝馬の競走生活が長くなったことも大きい。また、以前は輸送といった環境の変化に弱いとされてきた牝馬だったが、ドバイG1のドバイシーマクラシックを勝ったジェンティルドンナ、オーストラリアG1のコックスプレートを制したリスグラシューのように、現在では海外のG1レースでも一線級の牝馬は勝ち負けのレースを繰り広げている。今後も年度代表馬級の牝馬は続々と誕生するに違いない。

第5章

リーディング
サイヤーの
産駒が
年度代表馬と
ならない理由とは?

種牡馬リーディングは、2012年から2021年までディープインパクトが首位を守り通しているが、その間に年度代表馬となった産駒は、2012年と2014年のジェンティルドンナの1頭だけである。
実はディープインパクトと同様に、1995年から2007年まで13年にわたって種牡馬リーディング首位を守り続けたサンデーサイレンスの産駒もまた、2004年のゼンノロブロイ、そして、2005年と2006年のディープインパクトの2頭しか年度代表馬はいない。

これは2頭の種牡馬ともに優れた産駒を輩出し続けたことで、GⅠレースに多くの産駒が出走。その結果、年度代表馬の重要なポイントとなる、GⅠを複数回勝利する競走馬が出て来づらくなったことも関係している。

ただ、ディープインパクトからジェンティルドンナ、ロードカナロアからアーモンドアイ、古くはトウショウボーイからミスターシービー、シンボリルドルフからトウカイテイオーというように、親仔で年度代表馬となった例もある。
近年は牝馬の年度代表馬も増えてきただけに、近い将来は母仔での年度代表馬も誕生するかもしれない。

第6章

三冠馬になりながらも
年度代表馬に
選ばれなかった
2020年

過去の年度代表馬の競走成績を見ると、3歳馬はクラシックでの活躍、そして古馬はクラシックディスタンスでの活躍が選出に繋がっていた。

ただ、無敗でクラシック三冠馬、そして史上初めての無敗の牝馬三冠馬となりながらも、その年の年度代表馬に選出されなかった馬がいる。

それは、2020年の牡馬三冠馬コントレイルと、同年の牝馬三冠馬デアリングタクトである。普段の年ならば、この2頭で票が割れるはずなのだが、その2頭が直接対決したジャパンカップには、前々年の牝馬三冠馬であるアーモンドアイが出走していた。
史上初の三冠馬3頭の対決となったジャパンカップを制したのはアーモンドアイ。2着がコントレイルで3着がデアリングタクトと、三冠馬が上位を独占した。

この勝利が決め手となり、アーモンドアイはその年の年度代表馬を受賞。投票する記者たちにとって、この年は極めて難しい年度代表馬選考だったに違いない。

自分の応援していた競走馬が、その年を代表する馬としてその名を競馬史に刻むことができるのか。その結果が発表される翌年の1月上旬を、競馬ファンはいつも心待ちにしている。

年度代表馬 年表

1954年
中央競馬で優れた成績を残した競走馬を称えるため、啓衆賞を設立。初代年度代表馬にハクリヨウが選出される。
1963年
メイズイとリユウフオーレルが史上初のダブル受賞。
1965年
シンザンが史上初めて2年連続年度代表馬に選出。
1971年
トウメイが牝馬として初めて年度代表馬に選出される。
1972年
JRA機関誌である『優駿』が主催となり、名称を優駿賞に変更。
1983年
ミスターシービーが年度代表馬に選出。
父トウショウボーイ(1976年)と親仔での受賞となる。
1987年
JRAが主催となり、名称をJRA賞に変更。
1991年
トウカイテイオーが年度代表馬に選出。
父シンボリルドルフ(1984,1985年)と親仔での受賞となる。
1997年
エアグルーヴが年度代表馬に選出。牝馬としての選出はトウメイ以来26年ぶり。
1998年
フランスG1ジャックルマロワ賞を制したタイキシャトルが年度代表馬に選出。史上初めて最優秀短距離馬が年度代表馬となる。
1999年
記者投票で決まらず、JRA賞受賞馬選考委員会での審議の末、フランスG1凱旋門賞2着となったエルコンドルパサーが年度代表馬に選出。選考に残りながら受賞とならなかったスペシャルウィークとグラスワンダーは特別賞を受賞。
2009年
ウオッカが牝馬として初めて2年連続年度代表馬に選出。
2012年
ジェンティルドンナが年度代表馬に選出。父ディープインパクトと親仔での受賞となる。
2013年
香港G1香港スプリント連覇を達成したロードカナロアが年度代表馬に選出。
最優秀短距離馬が年度代表馬に選出されるのはタイキシャトル以来2度目。
2018年
アーモンドアイが年度代表馬に選出。父ロードカナロアとの親仔での受賞となる。
2020年
ジャパンカップで三冠馬3頭による直接対決をアーモンドアイが制す。
アーモンドアイは2度目の年度代表馬選出。無敗のクラシック三冠馬コントレイルは最優秀3歳牡馬に、無敗の牝馬三冠馬デアリングタクトは最優秀3歳牝馬に選ばれる。
その他のストーリー